PERK

serch
スクリーンショット 2019-01-07 15.21.46

Chef's Turntable Vol.08
”Iko iko”

連載『レコード好きだから作れる、おいしいお店』
第8回は祖母が残したレシピを孫が料理する、家庭料理酒場

2019.01.07 food interview store

何気なく入ったレストランの店内で、もしもレコードがあったら、
そこの店主はきっと職人気質で、作る料理にも特別なこだわりがあるのだと想像してしまう。
料理とレコードって、実はよく似ているのです。どちらも好きなことを追求すること、
“DIGる(掘る)”努力が大事で、アナログな手間を必要とし、だけどその分、
人の温もりや数字では測れない魅力を得ることができるもの。
音楽と同じく食も、便利にしようとすればいくらでも便利にできるこの時代だけど
DIGることでしか生まれない”美味しさ”がきっとあるはず。
そんな素敵な飲食店を紹介していく連載第8回目は
祖母が残したレシピを基に孫が腕をふるう、住宅街の人気店をご紹介!

_MG_0448

母方の祖母が残したレシピと、
父方の祖父が残したスピーカー

九品仏と聞くと馴染みが少ないけれど、自由が丘からも徒歩10分ほどの住宅街。
「九品仏に50年住んだ祖母の、料亭仕込みのレシピ」を掲げ、若年層から年配層まで幅広いファンをもつ、「家庭料理酒場アイコアイコ」。
 「レコードをかけていて、ご飯も美味しい」と聞いて偵察に訪れたものの、店内はレコードの枚数がとりわけ多いわけでもなく、プレーヤーはスピーカー内蔵型がちょこんと棚に収まっていて、特別に目を見張る部分があるわけではなかった。けれども、おすすめメニューである「冬瓜スープ煮」をひと口食べて、「あぁ…、ここのシェフは、絶対にこだわり派に違いない(取材しなくては!)」と確信。ひと皿ずつ運ばれてくるたび、スタッフに話しかけて、「BGMはあえてレコードなんですか?」「オーナーさんの趣味ですか?」と探っていき、デザートが運ばれてくる頃には、天井からミラーボールのように吊られた球体が、祖父から譲り受けたスピーカーセットだという情報までこぎつけた。
 オーナーシェフの石黒重久さんは、ここ九品仏で生まれ育ち、2016年に自身の店をオープンしたという37歳。
 「もともと料理は趣味でしたが、近くに住んでいた母方の祖母が、銀座の料亭に20
年以上通って習っていたレシピが大量に残されていたので、そこから選んだり、もちろんいつも作ってくれていた家庭料理も混ぜつつ、少しずつアレンジを加えてお出ししてます。家庭料理をコンセプトにしているので、珍しいものを出したいわけではなく、例えば豚肉は祖母がずっと買っていた街のお肉屋さんから仕入れていたり、近所の酒屋さんからも日本酒を買ったりと、〝ご近所で手に入るものでもこれだけ美味しいものが揃う〞ということを伝える目的もあるんです。九品仏って、自由が丘と田園調布に挟まれている割にはとてもマイナーな場所なんですが、住んでいる人たちはこの街がとても好きなので(笑)」

 

“昔からあるいいもの”に、
光をあてるシェフ

レシピや食材だけにとどまらず、今回撮影した冬瓜スープ煮の器や、日本酒を注い
だおちょこなど、「祖母の家の食器」も大切に使っているという石黒さん。お店では、父方の祖父から譲り受けたという球体型のスピーカーセットに加え、幅広い年代のレコードも愛聴されている。
 「父方の実家も近かったので、幼い頃は毎週のように母方の実家と行き来していたのですが、父も叔父も若い頃から音楽を聴いていたので、ロックを中心に、レコードがたくさんあったんです。僕の世代は、カセットからCDに移行する時代でしたが、レコードがとても身近な環境だったので、自分にとっては特殊なものという認識がないんだと思います」
 もともとバンド活動をしており、某有名大学の由緒あるロックバンドサークルで部長を担っていたという経歴の石黒さんだが、レコードの音にハマったきっかけは、意外にもジャズだったそう。
 「部をまとめる役割でしたが、ロック好きの部員はすごく勝手な人間ばかりで、一時期ロックが嫌になってしまって(笑)。逃げるようにジャズを聴き始めたところ、CDで聴くとピンとこなかったものも、レコードの音圧で聴くとベースやドラムの音がしっくりきて、そこからレコードの音にハマりました。お店では、お客様の層が幅広いので、いろんなジャンルや年代のレコードを意識しておくようにしていますが、『うちにはもうプレーヤーがないから』とレコードをいただいたりする機会もあり、自分が聴く幅も広がりましたね」
 母方の祖母のレシピと、父方の祖父のスピーカーに、レコードの音を乗せていく石黒さん。〝昔からあるいいもの〞に光をあてるスタイルは、まさにレコード好きのシェフならではと感じられた。
_MG_0393

_MG_0440

夏季限定の「骨付き鶏モモ肉と豚バラ肉の冬瓜スープ煮」は、冬瓜といえどあっさり過ぎず、肉の旨みもボリュームも楽しめる、毎年人気の一品(¥1,350)。通年メニューの「きんぴらごぼう」(¥380)も含め、ともに石黒さんがお祖母さんから受け継いだレシピ。

 

 

Chef’s Profile

_MG_0554

石黒さん(マネージャー)

1981年生まれ、37歳。もともと料理が趣味で、30歳を前に、祖母が残したレシピを美味しい家庭料理として出せるお店を持つことを決意。都内にある信州のお味噌屋さんが経営するレストランでの経験を経て、2016年6月に自身の店「アイコアイコ」を地元の九品仏にオープン。

 

 

Chef’s Sound System

_MG_0511

marantz M-CR611

「アンプにCDプレイヤーが付いているタイプ。お店では4つのスピーカーに接続していますが、一組ずつ音量を調節できるのが魅力です。カウンター側に取り付けたスピーカーの音量は、テーブル席側のスピーカーより少し小さくしたかったので、これを購入しました」

 

_MG_0515

Amadana Music SIBRECO

「スピーカー内蔵型レコーダーですが、限られたスペースに収まるという理由で購入したので、スピーカーは店内の4つのスピーカーに飛ばしています。最近やっと店内の音響スペースを広げられるようになったので、プレイヤーも新しいものを検討しています」

 

_MG_0496

VICTOR GB-1H

「父方の祖父から譲り受けた球形のスピーカーは、1974年頃のもの。合計8個のスピーカーユニットをマウントした構造になっているので、小さくても広がりある音域を楽しめます。お店では天井から吊るしていますが、祖母の家では脚が付いていて、床に立てて使っていました」

 

 

Chef’s Favorite Records

_MG_0408

『HIS BAND AND THE STREET CHOIR』 Van Morrison

「ヴァン・モリソンは、日本であまり聴かれていない印象ですが、個人的にどのアルバムも好きでおススメ。うちの料理が目指す“地味だけど美味しい”と同じで、“地味だけどいい曲”が多いので、せっかくレコードを紹介できる機会ですし、よかったら若い方にも聞いてもらいたいなって思いました」

 

_MG_0410

『A LOVE TO SHARE』 Jackie Opel

「スカ期を代表するトリニダード・トバゴ出身で、32歳という若さで自動車事故で亡くなってしまうシンガー、ジャッキー・オペルの一枚。これは、スカやレゲエ、ソウルのいいところを全部兼ね備えたようなアルバムで、ソウルとして聴いてもダントツにいいんです」

 

_MG_0412

『お茶の時間』 中川イサト

「フォークバンド「五つの赤い風船」のギタリスト・中川イサトが、バンド解散後にソロでリリースした一枚。73年のリリースで、実家にあったので父か叔父が購入したものでした。曽我部恵一さんがリコメンドしていたり、その界隈ではちょっと有名で、お店でかけると、たいてい1~2人は必ず『これ誰ですか?』と興味を持ってくれます」

 

 

TEXT_Aki Fujii

大学時代に受けた食品官能検査で“旨み”に敏感な舌をもつことがわかり、食べ歩いて20年。出版社時代はファッション誌のグルメ担当、情報誌の編集部を経て2013年独立。現在、食をテーマに雑誌やWEBマガジンにて連載・執筆中。ヒップホップもこよなく愛し、1996年の「さんぴんキャンプ」も経験したaround40。
https://www.instagram.com/akinokocafe/

 

 

PHOTO_Takaki Iwata

information

アイコアイコ

住所_東京都世田谷区奥沢6-28-4 ワイズニール自由が丘

営業時間_17:0023:00L.O.22:30

定休日_日曜、第4月曜

TEL_03-6432-3884

URL_https://www.facebook.com/bgmikoiko/