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Chef's Turntable Vol.02
"LITTLE SOUL CAFE"

連載『レコード好きだから作れる、おいしいお店』
第2回は下北沢の名店を紹介!

2018.01.22 food interview store

何気なく入ったレストランの店内で、もしもレコードプレイヤーから音楽が流れていたら、
そこの店主はきっと職人気質で、作る料理にも特別なこだわりがあるのだと想像してしまう。
料理とレコードって、実はよく似ているのです。どちらも好きなことを追求すること、
“DIGる(掘る)”努力が大事で、アナログな手間を必要とし、だけどその分、
人の温もりや数字では測れない魅力を得ることができるもの。
音楽と同じく食も、便利にしようとすればいくらでも便利にできるこの時代だけど
DIGることでしか生まれない”美味しさ”がきっとあるはず。
そんな素敵な飲食店を紹介していく新連載、第2回目となる今回は
20年近くに渡って良質のお酒と音楽を提供し続けている下北沢のソウルバー、
リトル ソウル カフェを紹介します!
(連載1回目の記事はこちらから→http://perk-mag.com/chefsturntable_dandelion/

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こだわり派にも響く、
多くの選択肢を揃えたい

 ジャケ写を見るのにも目を凝らすほど、薄暗い店内。壁の両面に隙間なく収納されたレコードの数は12000枚にのぼるそう。ソウルやファンク、ジャズ、ディスコ、ヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック専門で、年代は60年代後半から現在のリアルタイムのレコードまで幅広い。そんなリトル ソウル カフェの扉を開けると、玄関にはマットが敷かれ、奥にはソファがポツンとあるので、友人の部屋に招かれたような錯覚を覚えます。昨年11月、この“部屋”のカウンターには、日本ツアーのため来日していた、あのマッシヴ・アタックが訪れ、数年前には、同じくツアーのため来日していたNASも2日連続で足を運んでいたのだとか。
 18年前、オーナー兼マスターの宮前さんは、「1〜2年続けばいい」と、“僕の部屋のようなお店”を作ったそう。
 「大学入学と同時にクラブでバイトを始め、音楽三昧の日々を過ごしましたが、20代後半になると『今の自分ができることはなんだろう?』と考えるように。あるのは自宅のDJ機材とそれまでに集めた膨大なレコードだけ。これらを組み合わせて今まで自分が見て感じてきたものを頼りに、できることを始めようとスタートしました。18年間を通して、うちのお客さんは若い世代も外国の方でも、物事を深堀りしたい、人とは違うお酒を飲みたいというタイプが比較的多いことに気づきました。時には音楽が好きではないお客さんも来ますが、例えば、普段はレコードを聞かないという人でも、これだけたくさんあればどれか一枚は響いて、レコードに興味をもつかもしれないし、そういった選択肢をできるだけ増やしてあげたい」。

 

ラムを掘っていくのは、
レコードを掘る作業と同じ

 同じように、「(お酒をあまり)飲めない人にとっても、何か1種類くらい好きなボトルがあるんじゃないか」と、世界中のラムを揃えているのはリトル ソウル カフェのもう一つのこだわり。
 「小さな個人店だから、仕入れのお金はかけられないからといって、実用的で売れるものや最低限の種類だけ置くというのは、ちょっとロマンチックじゃないですよね」。
 こう独特の口調で話す宮前さんが、カウンターに所狭しと並ぶ様々なラムのボトルを紹介してくれた。
 「もともとハードなお酒が好きで、ラムに興味を持ったのは店をオープンさせる1990年代の後半。ラムはサトウキビを原料とする蒸留酒で、他のジャンルのお酒と比べても、味のヴァリエーションが幅広いのが魅力です。当時はまだ、ラムコークやモヒートといったカクテルのベースとして飲む機会はあっても、ラム本来の個性を楽しむ飲み方も、ストレートで飲むために存在するような銘柄もあまり知られていなかった。店をオープンして少しお金が入ると、輸入酒を多く取り扱う酒屋に行き、飲んだことのないラムの酒瓶を手に取っては、ほとんど勘で選んでラベル買い。この作業を繰り返しているうちに、試聴する環境がまだ整備されてない時代に、中身のわからないレコードを掘っていた作業と共通点が多いと感じ始めました。聴いたことのない盤を、ジャケの雰囲気とプロデューサーやミュージシャンのクレジット、リリース年やレコーディング場所をヒントにしながら、頭でどんな中身か判断するやり方。勉強不足の頃はハズシが多かったのも、レコードと一緒ですね(笑)」。
 宮前さんがラムを特に面白いと感じたのは、各ボトルごとに明確に味の個性があり、世界各地の風土や文化、歴史によって味が大きく異なることだったそう。
 「昔のブラックミュージックを掘り始めた頃に芽生えた感覚と同じで、ソウルやファンク、ディスコやジャズなどの種類があって、時代や地域、スタイルによって音楽的なバリエーションがいくつもある。レコードもラムも、掘れば掘るほど、訪れたことのない国や地域の風土、文化、歴史に出会えて、新鮮な気持ちになるんです」。

 

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ラムは生産国によって歴史的背景が絡み合い、製造方法が大きく異なるとされ、リトル ソウル カフェで扱うラムは、以下3つのジャンルを基準にしているそう。スペイン系(Ron)は、キューバ、ベネズエラ、ペルーなど幅広い地域で生産。デザートを連想させるような柔らかで飲みやすい甘口。イギリス系(Rum)は、ジャマイカやガイアナ、バルバドスで生産され、英国のスコッチのようなドライで重厚な香味が特徴。フランス系(Rhum)は、マルティニーク、グアドループ、レユニオンといったフランスの海外県で生産。仏産ブランデーのようなフルーティーな香りとなめらかで繊細なボディ。

 

(左)Ron Zacapa Centenario 23anos
ロン・サカパ・センテナリオ・23年。グァテマラ産で、いわゆるスペイン系甘ラムを象徴する焦げた糖蜜の濃い豊かな甘みが口中にひろがっていくタイプ。通称「ロンサカパ」。「アルコールを感じさせないスムースな飲み口なので初心者にもおすすめです。この銘柄を飲んでラムの面白さにどっぷりはまる人も多い人気銘柄にしてラムの王様」。

 

(中央)El Dorado 15Year Old
エルドラド・15年。ジャマイカと並ぶイギリス系ラムの代表国、南米ガイアナ産の大手ブランドの15年熟成品。「口当たりがよく、コクと程よい力強さを兼ね備えた厚みのあるボディーが癖になる、個人的にも好きな銘柄です」。飲みやすいスペイン系に慣れてきたら、スモーキーなイギリス系にトライするのもおススメなのだそう。

 

(右)Rhum J.M Calvados Finish
ラムJ.M カルヴァドス・フィニッシュ。フランスの海外県でカリブ海に位置するマルティニーク島産。500ml仕様の小瓶サイズで限定580本出荷という、少しマニアックなフランス系ラム。「Rhum J.Mブランドのなかでも、最後の熟成をカルヴァドス(リンゴのブランデー)の空樽に移し替えて仕上げたタイプで、サトウキビの旨味とほのかに香るフルーティーなリンゴのマリアージュの実験的試みを楽しめます」。

 

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ホームセンターにトラックで乗り付け、購入した大量の木材を釘で打ち付け、ペンキを塗って手作りしたという店内。

 

 

Chef’s Profile

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宮前伸夫さん(オーナー)。大学入学と同時にクラブでバイトを始め音楽三昧の日々。ヒップホップやハウスといった90年代のクラブミュージックにどっぷりつかり、同時並行でそのルーツとなるソウルやファンク、ジャズ、ディスコといったジャンルのレコードにのめりこむ。毎日バー営業に勤しむ傍ら、DJとしても活動。コンピや再発の企画を考えたり、ディスクガイドや雑誌のコラムも執筆。「自宅ではレコードの実力を出せる機材がないので、もっぱらストリーミングサービスを愛聴」とのこと。

 

 

Chef’s Sound System

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Turntable:SL-1200MK3D

シリーズ累計販売350万台の定番モデル「SL-1200」シリーズ。98年に発売されたMK3Dモデルは、よりDJの操作性が高められた仕様。宮前さん曰く、「耐久性の面で見ても世界標準のタンテ。当時の中古品は海外でも人気があり、ここ数年は日本で買って自国に持ち帰る外国人の姿が目立ちます」。

 

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Amp:Accuphase P370

現在3代目というアキュフェーズのアンプは、「信頼のブランドかつ、いい音で鳴りそうだな、とレコードを掘る感覚で選びました」とのこと。音の質感に徐々に飽きてくると代替えするそう。

 

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Speaker:Bose ※型番不明

宮前さんの自宅で使用していたものと、オープン当時に知人から譲り受けたという合計4組のボーズの小型スピーカーを設置。「お店が長く続くとは思っていなかったので、うちの音響装置は全般的にありもので間に合わせており、音楽酒場としてはかなり低コストだと思います。世界中から耳の肥えた有名DJやアーティストがたくさん遊びに来ては、いい音だねと声をかけてもらいますが、いつかは音楽酒場ならではの高品質の音響装置で、お客さんを迎えたいと考えています」。

 

 

Chef’s Favorite Records

「はじめはリアルタイムのヒップホップやエレクトリックな音楽に興味を持ち、ちょっと昔のソウルやファンク、ジャズもかじってみたいと掘ったときに、入口として出会うことになる確率の高いアーティストの代表格が、ロイ・エアーズ」と語る宮前さん。現行のシーンとのつながりもあって、センスのいいクロスオーバー感覚を持っており、一日の営業の中で何かしらの関連曲が一回は流れるのだとか。本人の作品と彼が手がけた関連アーティストの作品をピック・アップ。

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『Everybody Loves The Sunshine』(1976) Roy Ayers Ubiquity

ロイ・エアーズ本人が率いるバンド、ユビキティ名義の作品で、彼の代表曲「Everybody Loves The Sunshine」他、「Keep On Walking」、「The Third Eye」といったメローな肌触りのジャズファンクが心地よい。前作からの流れを引き継いだディスコ、ブギー路線の「Hey Uh-What You Say Come On」や、ブレイクビーツ古典の「Lonesome Cowboy」も太い鳴りでかっこよく、アルバムを通してロイ・エアーズの新たな才能が開花した様子が楽しめる。

 

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『Come Into Knowledge』(1977) Ramp

2枚目は、ロイ・エアーズがプロデュースしたオハイオ出身のバンド、ランプの唯一のアルバム。ロイ・エアーズと彼のバンドメンバーが制作に深くかかわっているので当時のロイ・エアーズ的なサウンドが楽しめるとしてレアグルーヴの掘り起こしムーヴメントの際に一気に注目された盤。リリース当時は全くプロモーションされず世間に知れ渡ることはなかったが、DJやクラブシーンから火が付いた再評価を代表するような作品。ロイ・エアーズの代表曲「Everybody Loves The Sunshine」のカヴァーや、ATCQのサンプリングネタとしても知られる「Daylight」などを収録。

 

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『Give Me Your Love』(1981) Sylvia Striplin

最後は、ロイ・エアーズがプロデュース、自身が立ち上げたレーベル「ウノ・メロディック」からリリースしたシンガー、シルヴィア・ストリップリンの唯一のソロアルバム。表題曲や、エリカ・バドゥもそっくりそのままのアレンジでカヴァーしたサンプリングソースの常連「You Can’t Turn Me Away」など、いわゆるクラブ世代にとっての定番曲が並ぶ、アーリー80’sの名盤。再評価の流れで何度かリイシュー盤が出ているが、当時のオリジナル盤はプレス枚数がとても少なく、かなりのレア高額盤として入手するのに苦労した思い出あり。今もお店では最も使用頻度の高い一枚だそう。

 

 

 

TEXT_Aki Fujii

大学時代に受けた食品官能検査で“旨み”に敏感な舌をもつことがわかり、食べ歩いて20年。出版社時代はファッション誌のグルメ担当、情報誌の編集部を経て2013年独立。現在、食をテーマに雑誌やWEBマガジンにて連載・執筆中。ヒップホップもこよなく愛し、1996年の「さんぴんキャンプ」も経験したaround40。
https://www.instagram.com/akinokocafe/

 

 

PHOTO_Yoko Tagawa(horizont)
EDIT_Yohsuke Watanabe

information

リトル ソウル カフェ

住所_東京都世田谷区北沢3-20-2 大成ビル2階

営業時間_20:00~翌2:00 (金・土は翌4:00まで) 

定休日_無休

TEL_03-5454-9800

URL_http://littlesoulcafe.com/